オレイン酸とは? 愛犬にとってどんな栄養?
脂肪酸は、犬にとって
・重要なエネルギー源であり
・細胞膜の構成成分
・脂溶性ビタミンの吸収を助ける
など、様々な生理機能に関与しています。
脂肪酸は構造によって
・飽和脂肪酸と
・不飽和脂肪酸
に分けられ、さらに不飽和脂肪酸は二重結合の数によって
・一価不飽和脂肪酸
・多価不飽和脂肪酸
に分類されます。
オレイン酸は、このうちの一価不飽和脂肪酸に属する代表的な脂肪酸です。
オレイン酸はどんな栄養か?
オレイン酸は、炭素鎖の中に二重結合を一つだけ持つ脂肪酸です。
主に植物性の油脂、特にオリーブオイルに豊富に含まれています。
飽和脂肪酸に比べて酸化しにくい性質を持っています。
犬は炭水化物やタンパク質からオレイン酸を体内で合成することができるため、食事からの摂取が絶対的に必要というわけではありません。
しかし、食事から摂取することで様々なメリットが期待できます。
愛犬に対して期待される効果
●皮膚・被毛の健康維持
これは最もよく知られている効果です。
適切な脂肪酸の摂取が
・皮膚のバリア機能を保ち
・乾燥やかゆみを抑え
・艶のある被毛を維持する
のに役立ちます。
ビタミンEの吸収をよくすることで相乗効果も期待できます。
●エネルギー源
脂肪は犬にとって効率の良いエネルギー源。
特に活動的な犬や体重を維持したい犬にとって重要です。
●細胞膜の構成成分
オレイン酸は細胞膜を構成する重要な要素です。
細胞膜の柔軟性や透過性に影響を与え、細胞が正常に機能するために必要です。
●脂溶性ビタミン(A, D, E, K)の吸収促進
これらのビタミンは脂肪と一緒に摂取されることで効率よく吸収されます。
オレイン酸を含む適度な脂肪は、これらの重要なビタミンの利用を助けます。
●消化管の健康サポート(間接的)
消化吸収された脂肪は
・消化管の細胞のエネルギー源
・特定のホルモン分泌に関わる
など間接的に消化管機能のサポートに関わる可能性が指摘されています。
ただし、これはオレイン酸単独の効果というより、適切な脂肪摂取全体の効果です。
またオレイン酸を含む一価不飽和脂肪酸は、他の脂肪酸と比較して比較的速やかに消化吸収される傾向があります
悪玉コレステロールを減らす可能性
ヒトでは悪玉(LDL)コレステロールを減らし、善玉(HDL)コレステロールを維持する効果が知られていますが、犬においてはコレステロール代謝のメカニズムがヒトとは異なるため、同じように考えることはできません。
しかし、バランスの取れた脂肪酸摂取の一部として、間接的に循環器系の健康に貢献する可能性はあります
●炎症の調整サポート(穏やか)
オメガ-3脂肪酸ほど強力ではありませんが、オレイン酸も飽和脂肪酸や特定のオメガ-6脂肪酸に比べて、体内の炎症反応を穏やかに保つ方向に働く可能性が示唆されています。
また、オレイン酸が多く含まれる食品(オリーブオイルなど)に含まれる他の成分(ポリフェノールなど)が、体内の酸化ストレスや炎症を軽減する助けになる可能性が示唆されています。
不足や過剰になるとどうなるか
不足した場合
極端な脂肪不足は
・皮膚の乾燥
・被毛のパサつきや脱毛
・成長不良、体重減少
などを引き起こす可能性があります。
また、脂溶性ビタミンの吸収が悪くなり、それぞれのビタミン欠乏症のリスクも高まります。
オレイン酸は体内合成されるため、オメガ-3や必須脂肪酸であるオメガ-6脂肪酸の欠乏ほど直接的かつ顕著な症状が出にくいかもしれませんが、全体的な脂肪バランスが崩れる原因となります。
必須脂肪酸であるリノール酸(オメガ6系)やα-リノレン酸(オメガ3系)の不足の方が、皮膚炎などの健康問題を引き起こしやすいため、そちらをより重視する必要があります。
過剰な場合
オレイン酸自体に毒性はありません。
脂肪は高カロリーなので、過剰摂取はまず肥満の原因となります。
肥満は
・関節疾患
・心臓病
・糖尿病
など、様々な健康問題のリスクを高めます。
また、一度に大量に摂取すると消化不良や下痢を引き起こすことがあります。
長期的な過剰摂取は、膵炎のリスクを高める可能性も指摘されています。
犬の膵炎は、一度発症すると再発しやすいうえ、重症化すると命にかかわる病気です。
高脂肪食がその大きな引き金となるため、オレイン酸を含む健康に良いとされる脂肪でも、与えすぎは禁物です。
特に小型犬や特定の犬種(ミニチュア・シュナウザーなど)は膵炎になりやすい傾向があるため注意が必要です。
また過剰な脂肪摂取は、カルシウムなどのミネラルの吸収を阻害する可能性もあります。
その他オレイン酸について
●酸化(劣化)が怖い栄養素
オレイン酸は不飽和脂肪酸ですが、多価不飽和脂肪酸(オメガ-3やオメガ-6)に比べると酸化しにくい性質があります。
しかし、全く酸化しないわけではありません。
・熱
・光
・酸素
によって酸化が進み、過酸化脂質という有害物質を生成します。
この過酸化脂質は、犬の体内で細胞を傷つけ、炎症や様々な疾患の原因となる可能性があります。
新鮮で適切に保管された油を選ぶことが、オレイン酸のメリットを享受する上で非常に重要です。
●「高オレイン酸」品種の進化
ヒマワリ油やサフラワー油はオメガ-6脂肪酸が多い油です。
が、品種改良によってオレイン酸の含有率を極めて高めた「高オレイン酸タイプ」が登場しています。
これは酸化しにくいオレイン酸の特性を活かし
・加熱安定性を高めたり
・健康効果
を期待して開発されたもので、人間の食品だけでなく、ペットフードの原料としても利用されることがあります。
油の種類を選ぶ際に「高オレイン酸」という表示があるかどうかも一つの視点になります。
●消化管への影響の可能性
最近の研究では、食事に含まれる脂肪の種類が、腸内細菌叢の構成に影響を与える可能性が示唆されています。
オレイン酸を含む脂肪が、特定の腸内細菌の増殖を促したり抑制したりすることで、間接的に犬の消化吸収や免疫機能に関与しているという、まだ研究途上の分野です。
●犬はオレイン酸を合成できる
ヒトはオレイン酸を体内で合成できますが、犬もリノール酸からオレイン酸を合成することができます。
これは、犬が雑食に近い食性を持つ動物として進化してきた過程で獲得した能力の一つと考えられています。
●犬の体脂肪にも含まれる
犬の体内に蓄積される脂肪組織にも、比較的多くのオレイン酸が含まれています。
これは、摂取した脂肪酸の組成を反映する側面もありますが、体内での合成も寄与しています。
●嗜好性に影響
脂肪の風味は犬の食いつきに大きく影響します。
オレイン酸を含む油をフードに少量加えることで、嗜好性が向上することがあります
ただし、与えすぎは禁物。
●ドライフードの酸化防止に
開封後のフードに少量の酸化しにくい油(オレイン酸リッチな油)をかけることで、表面の酸化を多少抑制する効果が期待できます。
がそれ以上に脂肪過多になる可能性が高くおすすめできません。
他の栄養素との組み合わせ
● 脂溶性ビタミン(A, D, E, K)
上述の通り、これらのビタミンの吸収には脂肪が不可欠です。
オレイン酸を含む脂肪と一緒に摂取することで、これらのビタミンの効果を最大限に引き出せます。
●ビタミンE
ビタミンEは強力な抗酸化作用を持ち、脂肪酸(特に不飽和脂肪酸)が酸化するのを防ぐ役割があります。
オレイン酸を含む油には天然にビタミンEが含まれていることが多いですが、サプリメントなどで摂取する場合も、ビタミンEが同時に配合されていると、脂肪酸自体の安定性が高まります。
●オメガ-3脂肪酸
オレイン酸(オメガ-9)とオメガ-3脂肪酸(EPA, DHAなど)は、どちらも体内で様々な役割を果たす不飽和脂肪酸ですが、その働きは異なります。
オレイン酸の摂取量を適切に保ちつつ
・抗炎症作用
・脳機能サポート
に重要なオメガ-3脂肪酸をバランス良く摂取することが、犬の健康全般にとって理想的です。
オレイン酸の吸収をよくするために
オレイン酸を含む脂肪の吸収には、胆汁酸と膵臓から分泌されるリパーゼという酵素が必要です。
●他の食事と一緒に摂取する
空腹時よりも、他の炭水化物やタンパク質を含む食事と一緒に摂取する方が、消化液の分泌が促され、吸収が良くなります。
●健康な消化器系
肝臓、胆嚢、膵臓が健康に機能していることが、脂肪の適切な消化吸収には不可欠です。
これらの臓器に疾患がある場合は、脂肪の吸収が悪くなることがあります。
オレイン酸を摂取するときの注意点
●総摂取カロリーに注意
オレイン酸は脂肪であり、グラムあたりのカロリーがタンパク質や炭水化物の2倍以上あります。
良い栄養素だからといって与えすぎると、カロリー過多になり肥満を招きます。
愛犬の年齢、体重、活動量に合わせた適量を与えることが重要です。
●品質と鮮度
酸化した油は有害です。
開封後は冷暗所に保管し、なるべく早く使い切るようにしましょう。
酸化のサイン(異臭など)があれば使用しないでください。
人間の食用として品質管理されたものを選ぶのが安全です。
●加熱
加熱によって酸化は促進されます。
オレイン酸は比較的安定していますが、高温での長時間加熱は避けるのが賢明です。
加熱調理に使う場合は、発煙点の高い油を選ぶことも考慮に入れると良いでしょう。
●他の脂肪酸とのバランス
オレイン酸だけを大量に摂取するのではなく、オメガ-6脂肪酸や特に重要なオメガ-3脂肪酸とのバランスを考慮した食事を与えることが大切です。
総合栄養食であれば、これらのバランスは考慮されていますが、手作り食やおやつで特定の油を多用する場合は注意が必要です。
薬の服用との兼ね合い
特定の薬剤の中には、食事中の脂肪によって吸収率が変動するものがあります。
例えば
特定の抗真菌薬
などは、脂肪と一緒に摂取することで吸収が良くなることが知られています。
逆に、脂肪と結合して吸収を妨げるような薬剤(稀ですが)や、脂肪の消化吸収に影響を与える薬剤もあります。
●一般的な注意
オレイン酸を含む脂肪そのものが直接多くの薬剤と相互作用することは少ないと考えられます。
しかし、食事内容(特に脂肪量)が大きく変わることは、予期せず薬の吸収や効果に影響を与える可能性ゼロではありません。
愛犬が何らかの薬を服用している場合は、オレイン酸を含む油やサプリメントを与える前に、必ず獣医師に相談してください。
獣医師は、服用している薬の種類や愛犬の健康状態を考慮して、適切なアドバイスをしてくれます。
オレイン酸を多く含む食品
犬の食事として利用しやすい代表的な食品には以下があります。
●オリーブオイル
特にエキストラバージンオリーブオイルはオレイン酸が豊富で、ポリフェノールなどの抗酸化物質も含まれます。
少量であれば犬に与えても問題ありません。
●アボカド
オレイン酸が豊富ですが、犬にとって中毒性のあるペルシンという成分が含まれているため、与えるべきではありません。
ごく少量であれば問題ないという意見もありますが、リスクを避けるのが賢明です。
● べに花油やヒマワリ油
品種改良された高オレイン酸タイプ(ハイオレイックタイプ)のものがあります。
●キャノーラ油
オレイン酸の含有量が多い油の一つです。
●動物性脂肪
牛脂、豚脂、鶏脂などにもオレイン酸は含まれています。
ただし、飽和脂肪酸も多く含まれるため、与えすぎには注意が必要です。
●特定のナッツ類・種実類
アーモンド、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、ピーカンナッツなど。
ただし、犬にとって
・有害なナッツ(マカダミアなど)もある
・脂肪分が非常に高く消化しにくい
・誤嚥の危険があること
から、犬に与える際は種類と量に最大限の注意が必要です(ヒッポのごはんでは推奨していません)
犬に人間の食品を与える際は
・アレルギーや消化不良のリスク
・中毒の危険性があるもの(玉ねぎ、チョコレート、キシリトールなど)と混ざっていないか
十分確認してください。
サプリとして摂取した時
オレイン酸単体のサプリメントは犬用としては少なく、多くは他の脂肪酸(特にオメガ-3やオメガ-6)を含むオイル系サプリメントの成分として含まれています。
考えられる弊害
●消化器系の不調
特に液体タイプのオイルを一度に大量に与えると、下痢や嘔吐を引き起こしやすいです。
●カロリー過多と肥満
サプリメントであっても脂肪は高カロリーです。
指示された量や頻度を守らないと、総摂取カロリーが増加し肥満の原因となります。
●他の脂肪酸とのバランス崩壊
オメガ-3やオメガ-6など他の脂肪酸とのバランスが崩れると、意図しない健康影響が出る可能性があります。
●酸化のリスク
液体タイプのオイルサプリメントは、開封後の保管状態が悪いと酸化しやすいです。
酸化したサプリメントは与えるべきではありません。
遮光性のある容器に入っているか、保管方法の指示を必ず確認しましょう。
●品質のばらつき
サプリメントの製造基準はペット用の場合、人間用ほど厳しくない場合があります。
信頼できるメーカーの、品質管理がしっかりしている製品を選ぶことが重要です。
●不要な添加物
香料やフレーバーなどが添加されている場合があり、犬によっては合わないこともあります。
サプリメント活用の考え方
総合栄養食を食べている健康な犬であれば、通常はサプリメントでオレイン酸を別途補う必要はありません。
・皮膚の状態が特に気になる
・手作り食で脂肪バランスの調整が難しい
など、獣医師と相談の上で補助的に使用を検討するのが良いでしょう。
オレイン酸単体よりも、皮膚・被毛や炎症ケアに特化したオメガ-3脂肪酸とのバランスを考慮したサプリメントを選ぶ方が、目的には合っていることが多いです。
まとめ
オレイン酸は犬にとって重要な脂肪酸の一つであり、皮膚・被毛の健康、エネルギー供給、細胞機能などに貢献します。
特にオリーブオイルなどの良質なオイルからの摂取は有益ですが、最も重要なのは全体の食事における脂肪の量とバランスです。
また「酸化防止」が健康効果を享受する上で極めて重要であります。
そしてオレイン酸を含む脂肪が消化管機能や腸内環境に間接的に影響を与える可能性などもあります。
愛犬にオレイン酸を含む食品やサプリメントを与える際は、量、品質、鮮度に十分注意し、他の栄養素とのバランスを意識することが大切です。
もし持病があったり、薬を服用していたりする場合は、必ずかかりつけの獣医師に相談し、個体にあったアドバイスを受けるようにしましょう。
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