※この記事は栄養成分自体の化学的な性質等を示すものであり、ごはんの効能を表すものではありません。
人や犬だけでなく、地球上すべての生き物の生命維持に水と酸素が重要なのは言うまでもありません。
特に酸素はほんの数秒・数分の欠乏が、死に直結するもの。
その酸素と最も密接な関係にあるのが鉄分
すなわち生き物は、鉄分なしでは生きていけないのです。
生命維持に重要な【鉄】体内での役割
鉄の働きをざっくり上げると
・免疫機能の維持
・活性酸素の除去
・精神を安定させる
・コラーゲンの生成に関与
などなど、非常に多岐にわたります。
中でも最も重要と言えるのが
鉄は
・ヘモグロビン
・ミオグロビン
の重要な構成要素。
ヘモグロビンは赤血球中の色素。
酸素と結びつき、全身に酸素を運搬
ミオグロビンは筋肉中の色素。
こちらも酸素と結びつき、血液からの酸素が不足した時、筋肉にとって酸素ボンベのような役割を果たしています。
このように酸素運搬に関する機能を持つ鉄を「機能鉄」と呼びます。
機能鉄は体内の鉄の約70%を占めます。
筋肉は運動するといっぱい酸素を使うので、特にこんな機能があるんだね。
貧血だけじゃない。鉄の不足で起きる様々な症状
食べ物から摂取した鉄分の吸収と、尿などからの排泄はほぼ同じ量。
また古くなった赤血球は脾臓でリサイクルされ、取り出された鉄分は骨髄で再度ヘモグロビン成分として利用されます。
この働きのため、通常であれば鉄分が不足することはありません。
鉄分不足の原因としては
・外傷や腫瘍・潰瘍による大量の出血
・発情出血
・食事からの鉄分不足
・体内での鉄分の吸収阻害
などが挙げられます。
鉄は不足が起きないよう、体内でストックされています
鉄は短時間の欠乏が命に関わる栄養素。
なので常に体内、小腸粘膜、肝臓や脾臓、骨髄などに蓄えられています。
これらを貯蔵鉄と呼びます。
(フェリチン・ヘモジデリンなど)
体内で
酸素運搬に関する機能鉄が不足
→それでも機能鉄が不足
→仕方なく血液中の血清鉄で補う
→それでもまだ機能鉄が不足
→ヤバいけどヘモグロビンから補う
という順に不足した鉄分を補います。
ここまでくると、全身に酸素を運ぶヘモグロビンの力が弱まり、重大な貧血症状!
それでも鉄分が不足→ 最終手段として、全身の組織鉄が利用されてしまいます。
鉄分不足で現れる全身の様々な症状
ポパイは鉄分豊富なほうれん草を食べてパワーアップしますが、あれと逆をイメージしてもらえれば。
まずは全身の酸素不足により
・何もしていないのに息が荒い
・心拍数の増加から心肥大
・脳のエネルギー不足から精神障害
鉄は全身で多くの機能を持つので
・被毛や粘膜のトラブル
・コラーゲン不足による内出血
・甲状腺ホルモンが非活性化
→体温低下
ちなみに
ですが、実は野菜にしては多いほうですが、そこまで飛び抜けた量ではない。
なんでも当時は、一桁多く間違えた数字が発表されていたようですよ。
【重要】食品に含まれる鉄分は「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類
肉や魚など動物性タンパク質に多い
非ヘム鉄
野菜や海藻など植物性食品に多い
この2種類の鉄の大きな違いは吸収率
その差はなんと
5~6倍
非ヘム鉄は
むき出しのまま吸収されるので、胃壁や腸管を荒らすことがあります。
また非ヘム鉄は、大量に摂ると他のミネラルの吸収を阻害することも。
対してヘム鉄は
・吸収率が高く
・胃にも優しい
・他のミネラルにも優しい
鉄分はヘム鉄を中心に摂取するべきだということがわかります。
また非ヘム鉄は、一緒に摂る栄養素でも吸収率が変わります。
=吸収が促進される
・食物繊維やタンニン、シュウ酸
=吸収が阻害される
それを考えると、シュウ酸を多く含むほうれん草の鉄はめちゃくちゃ吸収されにくい!なんでも1%くらいしか吸収されないらしい・・・
動物性食品の鉄分がすべて「ヘム鉄」なのではないんです
肉=ヘム鉄100%ではない!
ヘム鉄の割合は食材によって違います。
例えば、食材に含まれる鉄分量全体に対し
・豚肉 平均70%
・鶏もも 平均50%弱
・ささみ 約35%
・まぐろ 約66%
・ひらめ 約25%
・豚レバー 平均16%
が、ヘム鉄の含有量。
残りは非ヘム鉄が含まれます。
※農林水産省東京農林水産消費技術センター
同じ動物性でもかなり差があります。
☆ここでちょっと気になる豚レバー
100g中の全体の鉄分量は断トツ
なので割合ではなく、含有量であればこの中でもナンバーワン
でも言い換えれば
非ヘム鉄が84%もあるということ
これは動物のレバー全般に言えること。
レバーは摂りすぎは、即ビタミンA過剰
なので、ごはんには入れるとしても少量
このことから、レバーは鉄分補給にあまり向いていない食材だとも言えます。
※でも肉と一緒に少量食べるとすごい効果!
ヘム鉄は加熱で非ヘム鉄に変性!
加熱調理によって、鉄分自体が失われることはありません。
しかし大切なヘム鉄が減少
非ヘム鉄に変性してしまうんです。
これには加熱する温度と時間が深く関係しています。
牛・豚・鶏・魚での実験で
肉では顕著な変性はない
魚は変性が見られる
・170℃30分の加熱
牛・鶏で顕著な変性
豚は変性が見られない(!)
魚ではさらに変性
・170℃45分の加熱
牛でさらに変性が見られる
豚では変性は見られない(!)
イワシでは90%以上が非ヘム鉄に
加熱時における動物性食品中のヘム色素の分解
山本由喜子
この実験から
・170℃(フライ)で肉の変性が顕著に
・牛では加熱時間の経過でさらに変性
・豚の加熱変性に対する謎の安定性
ということが導き出されています
もう一つ重要な項目として
ことが挙げられます。
すなわち!
63℃で加熱する低温調理であれば、どの肉・魚でも、非ヘム鉄の変性を最小限に抑えられるということ。
鉄分補給にはヘム鉄の多い肉類を低温調理で仕上げることが最善の策であると言えそうです。
(生肉が一番ですがサルモネラ菌とかが怖い)
栄養データベースだけではなく総合的に鉄分補給に優秀な食材は?
※含まれる鉄分の内、ヘム鉄の割合のデータの無いものは、豚を参考に計算
それではいってみよう!
ヘム鉄が多いのはこの食材!
・食品名 鉄分 予測ヘム鉄量
①猪肉 5.8 4.06
②鹿肉 3.9 2.73
③牛もも 2.8 1.96
④羊肉 2.0 1.4
⑤まぐろ 2.0 1.32
⑥いわし 2.3 1.15
⑦豚ヒレ 0.9 0.63
ジビエ肉強し!
※ただし猪の鉄分は脂付肉から計算した値
猪脂付肉では鉄分2.5・予測ヘム鉄1.75
後は加熱調理の変性によるヘム鉄の減少をできるだけ食い止めること
ポイントは
・魚は肉に比べて変性が顕著
特にいわしは100℃30分の加熱で半分が変性
・煮る・焼く・電子レンジなどの調理であれば、非ヘム鉄の増加は10%程度
(高温のオーブン調理では増加顕著)
・低温調理はさらに増加を抑制
豚肉は加熱調理でも非常に安定しているので、ヘム鉄の含有量自体が低くても優秀な鉄分供給源と言えます。
ちなみに、単に100g中に含まれる鉄分だけに注目してみると
①干エビ 15.0
②豚レバ 13.0
③しじみ 8.3
④卵黄 4.7
⑤牡蠣 2.9
数字だけ見るとかなり多い!
ですが、ごはんの中でのこれらの食材の使用量は多くても5%程度でしょう。
メインの肉に比べると極少量。
「鉄分の供給源」としては物足りない。
やはりわんちゃんの鉄分は
肉から摂取するのが一番効率がいい!
ということになります。
鉄分は毎日、継続して摂取してこそ安定します
実は鉄は非常に吸収されにくい!
ヘム鉄は非ヘム鉄の5~6倍の吸収率
と言っても、吸収率はせいぜい15~20%
体内の貯蔵鉄が減少していると、吸収率が上がるが、それでも最大で40%未満。
なので通常の食事だけで、鉄分が過剰になることは考えにくい。
過剰になるとすれば、サプリの摂取。
総合栄養食であれば、それだけで十分な鉄分が含まれているはずですので、それ以上をサプリで補う必要はありません。
鉄分の過剰では、食欲の低下や下痢という症状が見られます。
体内の鉄分を安定させるには、一度に多く摂取するのではなく、継続して必要量を取り続けることが重要となります。
さらに
・銅は、鉄をヘモグロビンに運ぶ役割。
・たんぱく質は鉄の吸収を助けるとともに、赤血球の材料
鉄分だけではなく、他の栄養素もバランスよくとることが重要です。
葉酸が摂りやすいのは、レバー系・ブロッコリーや南瓜・卵黄など
ビタミンB12もレバー系・卵黄
レバーの鉄分は非ヘム鉄が多いですが、他の栄養素が鉄分とともに大活躍!
だから鉄分補給=レバーという印象が強いのかもしれませんね
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