犬の外耳炎は、動物病院の診察で
最も多い疾患の一つ
と言われるほど一般的な病気です。
・痒み
・痛み
を伴い、犬にとって非常に不快な状態を引き起こします。
一度治っても
再発を繰り返す
ことが多いため
▶原因をしっかりと特定し
▶適切な治療と予防を継続
することが大切です。
犬の外耳炎とは?どんな病気か?
犬の耳は
耳介(耳たぶ)から鼓膜までの
「外耳道」
という管状の構造を持ちます。
ヒトの外耳道が
・比較的まっすぐ
なのに対し
犬の外耳道は
・途中で大きく曲がるL字型
をしています。
このL字型の構造は、奥にある
・鼓膜
・内耳
を保護する役割があります。
しかし同時に
・入り込んだ湿気や汚れが溜まりやすい
・通気性が悪い
という性質を持ちます。
そのため
・細菌
・真菌(カビ)
が繁殖しやすい環境となり、外耳炎になりやすい要因となっています。

外耳炎は
この外耳道に炎症が起こる病気。
単一の原因で起こることもあります。
しかし多くの場合
▶複数の要因が複雑に絡み合って
▶発症・慢性化します。
獣医学的には
外耳炎を引き起こす要因
を以下の4つに分類して考えます。
●一次原因
直接的に外耳炎を引き起こす根本的な原因
◇アレルギー
・アトピー性皮膚炎
・食事性アレルギー
◇外部寄生虫
・ミミヒゼンダニなど
◇異物
・植物の種
・砂
・毛など
◇角化異常を引き起こす疾患
・脂漏症など
◇自己免疫疾患
◇内分泌疾患
・甲状腺機能低下症など
●二次原因
一次原因によって
▶耳道の環境が悪化した結果
▶後から感染して炎症を悪化させる病原体
◇細菌
・ブドウ球菌
・緑膿菌など
◇マラセチア
・酵母様真菌
●増悪因子
外耳炎を悪化させる要因です。
それ単独で
外耳炎を引き起こすわけではありません。
◇湿度、気温
・特に高温多湿の環境
◇耳道の過剰な分泌物
・耳垢など
◇耳道の構造
・垂れ耳
・毛が多い
・耳道が狭い犬種
◇過剰な耳掃除や不適切な耳掃除
●持続因子
慢性的な炎症によって
▶耳道の構造が変化し
・治療を困難にする
・再発しやすくする
などの要因です。
◇耳道の皮膚の肥厚
・厚く硬くなる
◇耳道の石灰化
◇外耳炎の悪化による
・鼓膜の破壊
・中耳炎
・内耳炎
への波及
犬の外耳炎の症状
外耳炎の最も代表的な症状は
「痒み」です。
犬は
・耳を執拗に掻く
・頭を激しく振る
・家具などに耳をこすりつける
などします。
●痒み以外の症状
◇耳から独特のニオイ
・細菌
・マラセチア
の種類によって
・甘酸っぱいニオイ
・ツンとするニオイ
・脂っぽいニオイ
などがします。
◇耳だれ(耳垢)
耳垢の
・量が増える
・色(黄色、茶色、黒色など)が変わる
・性状(ドロドロ、ベタベタ、乾燥しているなど)が変わる
などします
◇耳の赤みや腫れ
・耳介の内側
・外耳道
が赤く腫れます。
◇痛み
・耳を触られるのを嫌がる
・触るとキャンと鳴く
などします。
◇耳介の脱毛やかさぶた
耳を掻きすぎることで
・耳介の毛が抜ける
・傷やかさぶたができる
などします。
◇頭を傾ける、バランスを崩す
・炎症が重度になる
・中耳や内耳に波及する
など病気が進行すると
・頭を傾けたり
・まっすぐ歩けなくなったり
することがあります。
◇聴覚障害
炎症が慢性化することで
▶耳道が狭くなる
▶鼓膜が破壊される
などすると、耳の聞こえが悪くなることがあります。
症状は
片耳だけの場合もあれば
両耳に出る場合もあります。
特にアレルギーが原因の場合は
両耳に出ることが多いです。
犬の外耳炎を予防するためには?
外耳炎を完全に予防することは難しい場合もあります。
しかし
・発症リスクを低減させる
・早期発見・早期治療に繋げる
などすることは可能です
原因に応じた予防法が重要です。
●日頃からの耳のチェックと適切なケア
◇毎日または数日に一度
・耳のニオイ
・耳垢の量や色
・耳の赤みがないか
チェックしましょう。
◇耳掃除は
・必要な時に
・適切な方法
で行います。
・汚れていないのに頻繁に耳掃除
・不適切な方法で行う
ことは
▶耳道の保護機能を損ない
▶かえって外耳炎のリスクを高めます。
◇耳掃除には
犬用のイヤークリーナーを使用します。
綿棒で耳道の奥をこじるのは危険です。
耳道の入り口付近の汚れを優しく拭き取る程度に留めましょう。
奥の掃除は獣医師にお願いしましょう
●アレルギー疾患の管理
アレルギーが
外耳炎の根本原因となっている場合
アレルギーに対する治療
・食事療法
・環境対策
・薬物療法
・アレルゲン免疫療法など
を行うことで、外耳炎の再発を減らすことができます。
●寄生虫予防の徹底
定期的に
・ノミ
・マダニ
・ミミヒゼンダニなど
外部寄生虫予防薬を投与しましょう。
●耳の構造への配慮
・垂れ耳
・耳の中に毛が多い犬種
例えば
・コッカースパニエル
・プードル
・シュナウザーなど
は耳道が蒸れやすいため特に注意が必要。
・耳の毛のトリミング
(抜きすぎも注意)
・定期的な洗浄など
その犬種に合ったケアを獣医師と相談しましょう。
●入浴後や水遊び後のケア
・泳いだ後
・シャンプー後
など水に触れた後は
耳の中に水分が残りやすいので
▶優しく拭き取ったり
▶乾燥用のイヤークリーナーを使用したり
しっかり水分を除去しましょう。
●常在菌叢(マイクロバイオーム)
犬の耳道にも皮膚と同様に
常在菌叢(マイクロバイオーム)
が存在します。
そのバランスが
耳の健康維持
に重要な役割を果たしています。
・過度な耳掃除
・不適切な洗浄剤の使用
はこの常在菌叢のバランスを崩し
▶かえって病原菌が増殖しやすい環境を作り出してしまう可能性があります。
耳掃除は
「やりすぎない」
が鉄則であります。
あくまで
・必要な時
・適切な方法で行う
ことが、マイクロバイオームのバランスを保つ上で大切です。
最近では、耳のマイクロバイオームのバランスを整えることを目的とした
・イヤークリーナー
・サプリメント
なども研究されています。
犬の外耳炎の治療や処方される薬の例
外耳炎の治療は
・原因の特定
・耳道内の洗浄
・原因に合わせた薬物療法
が中心となります。
●洗浄
治療効果を高めるために
まず耳道内の
・耳垢
・膿
・炎症産物など
を除去することが非常に重要です。
◇自宅での洗浄
獣医師の指示に従い
・犬用のイヤークリーナー
を用いて洗浄します。
◇病院での洗浄
・貯留物が多い場合
・耳道の奥が汚れている場合
動物病院で耳鏡などを用いてより丁寧に洗浄を行います。
重度の場合は
・鎮静
・麻酔下
で耳鏡下洗浄を行うこともあります。
●外用薬
耳道内に直接投与する薬です。
ほとんどの外耳炎治療の中心で
複数の成分
が配合された合剤が多く使われます。
◇抗生物質
細菌感染がある場合に使用します。
◇抗真菌薬
・マラセチア感染
・皮膚糸状菌症
がある場合に使用します。
◇ステロイド
耳道の
・炎症
・痒み
を抑えます。
◇寄生虫駆除薬
ミミヒゼンダニなどが原因の場合に使用します。
★副作用
外耳炎治療薬の副作用は
・使用する薬剤の種類
・投与経路
によって異なります。
△局所の刺激
塗布した部位の
・赤み
・痒み
・痛みなど。
△聴覚・平衡感覚障害
アミノグリコシド系抗生物質など
一部の成分は
鼓膜が破れている場合など
▶内耳に影響を与え
・聴覚障害
・平衡感覚障害
を引き起こす可能性があります。
△ステロイド外用薬
長期間使用すると
・皮膚が薄くなる
・血管が浮き出て見える
・皮膚の色素沈着
・易感染性など
局所的な副作用が出ることがあります。
●内服薬
・重症例
・慢性例
・外用薬だけでは効果が得られない
などの場合、あるいは
・全身性の原因
・アレルギー
・内分泌疾患など
がある場合に使用します。
◇抗生物質
重度の細菌感染
特に
・中耳炎
・内耳炎
への波及が疑われる場合。
◇抗真菌薬
・重度のマラセチア感染
・皮膚糸状菌症
◇ステロイド
・耳道の腫れがひどく外用薬が入りにくい
・全身性の炎症が強い場合
・アレルギーが原因
の場合など。
◇痒み止め
アレルギーが原因で痒みが強い場合
・アポキル
・サイトポイントなど
◇免疫抑制剤
・アレルギー
・自己免疫疾患
が原因の場合。
◇その他の原因治療薬
基礎疾患(甲状腺機能低下症など)があれば、その治療薬を投与します。
★副作用
全身に作用するため
皮膚炎治療
で挙げたような全身性の副作用
・消化器症状
・多飲多尿
・免疫抑制など
が起こる可能性があります。
耳鏡による耳道の観察の重要性
外耳炎治療において
耳鏡(オトスコープ)
による耳道の観察は非常に重要です。
・耳道の状態
・狭窄
・浮腫
・貯留物の性状
・鼓膜の状態
・破れていないか
・炎症がないか
・原因となっているものの有無
・寄生虫
・異物
などを直接確認できます。
特に鼓膜が破れている場合
特定の成分を含む外用薬を使用すると
(アミノグリコシド系抗生物質など)
▶内耳に影響を与え
・聴覚障害
・平衡感覚障害
といった副作用が起こる可能性があります。
そのため治療前に
必ず鼓膜の状態を確認する
必要があります。
また、細菌感染の場合
・原因菌の種類
・どの抗生物質が効くか?
を調べるために
・細菌培養検査
・薬剤感受性検査
を行うことがあります。
これにより
効果のない抗生物質を漫然と使用
することを避け
▶薬剤耐性菌の発生を防ぐ
ことにも繋がります。
抗菌薬が効きにくくなった、または効かなくなった細菌のこと
犬の外耳炎:食事で気を付ける点・摂るべき栄養
食事療法は
特に外耳炎の根本原因が
食事性アレルギー
である場合に非常に重要となります。
また
・皮膚
・耳
の健康をサポートする栄養素を強化した食事は、再発予防にも役立ちます。
外耳炎の原因が
食事性アレルギーである場合
・特定のタンパク質源
・特定の炭水化物源
を避けた療法食が治療の根幹となります。
薬との直接的な兼ね合いは少ないですが
ステロイドなど一部の薬は
▶食欲を増進させることがあるため
▶体重管理には注意が必要です。
また
胃腸への負担を減らすために
▶内服薬を食事と一緒に与える
ことが推奨される場合もあります。
●除去食試験
食事性アレルギーが疑われる場合
原因食材を特定
するために除去食試験を行います。
今まで食べたことのない
「新しいタンパク質源」
やアレルギー反応を起こしにくいように加工された
「加水分解タンパク質」
を用いた療法食を使用します。
●脂漏症が原因の場合
過剰な皮脂分泌
をコントロールするために
・脂肪の質
・脂肪の量
に配慮した療法食が推奨されることがあります。
外耳炎で強化すべき栄養素
・耳道の皮膚の健康維持
・炎症の軽減に役立つ栄養素
を意識して摂取することが重要です。
◇オメガ3脂肪酸(EPA, DHA)
・抗炎症作用
・皮膚バリア機能強化
アレルギーによる炎症を軽減する効果が期待できます。
◇オメガ6脂肪酸(リノール酸)
皮膚バリア機能の構成成分。
不足すると
・皮膚の乾燥
・バリア機能の低下
を招き、外耳炎のリスクを高めます。
◇亜鉛
・皮膚細胞の正常な代謝
・傷の治癒
に不可欠で、さらに
・皮膚の細胞分裂
・免疫機能
にも関わるため
亜鉛が不足すると
・耳道の皮膚の再生が遅れる
・炎症が治りにくくなる
などすることがあります。
◇ビタミン類
・ビタミンA(皮膚や粘膜の健康)
・ビタミンE(抗酸化作用)
・ビタミンB群
(皮膚の健康、エネルギー代謝)
◇抗酸化物質
・ビタミンC,/E
・セレン
・ポリフェノールなど。
体内の酸化ストレスを軽減し
▶炎症を抑える助けとなります。
外耳炎で控えるべき栄養素
◇食事性アレルギーのアレルゲン
原因食材が特定された場合は
▶それを含む食品は完全に避けます。
◇過剰な脂肪
脂漏症が原因の外耳炎の場合、
過剰な脂肪摂取
は皮脂分泌をさらに亢進させる可能性。
また
▶消化不良を起こし
▶全身の健康状態を悪化させる
可能性もあります。
●食事療法の効果
食事療法によって
▶耳の炎症が軽減されると
・耳垢の量が減る
・ニオイが減る
・耳を掻く頻度が明らかに少なくなる
などすることがあります。
これは、食事療法が皮膚だけでなく、耳道の皮膚の健康にも直接的な影響を与えている証拠。
単に外用薬で炎症を抑えるだけでなく
体の中から原因に対処
することが
・慢性化
・再発
を防ぐ上で非常に重要であることを示しています。
手作り食で除去食試験を行う場合は
・栄養バランス
・原因食材の完全な除去
が難しいため、必ず
・獣医師
・栄養学の専門
・ヒッポのごはん
と相談して行うべきです。
犬の外耳炎の治療費の例
外耳炎の治療費は
・原因
・症状の重症度
・必要な検査
・治療内容
・慢性化の有無
・動物病院
によって大きく異なります。
●初診料・再診料:数千円程度
●検査費用
原因特定のための様々な検査費用
◇耳鏡検査:数千円
診察料に含まれることが多いですが、別途請求される場合も
◇耳垢検査:数千円
顕微鏡検査
・寄生虫
・細菌
・マラセチア
の確認
◇細胞診:数千円
耳垢の細胞を染色して確認
◇細菌培養
◇薬剤感受性検査:1万円~2万円
・原因菌
・効く抗生物質
を調べる
◇真菌培養検査:数千円~1万円
皮膚糸状菌症が疑われる場合
◇アレルギー検査(血液検査):数万円
◇病理組織検査:数万円
稀ですが、腫瘍などが疑われる場合
●洗浄費用
・耳道洗浄:数千円
・耳鏡下洗浄:数万円~(麻酔費用含む)
●薬代: 外用薬:数千円~数万円/本
内服薬(原因や期間によって大きく異なる)
●麻酔費用
・耳鏡下洗浄
・鼓膜チェックなど
麻酔下で行う場合。
●手術費用:数十万円
慢性化により耳道が閉塞した場合などに行われる全耳道切除術など
【注意点】
外耳炎は再発しやすい病気です。
特に慢性化すると
▶治療が長期にわたるため
▶費用も継続的に発生します。
原因によっては
・アレルギー検査
・食事療法
・高価な外用薬など
が必要になることもあります。
ペット保険に加入している場合は
▶補償内容を確認し
▶賢く活用しましょう。
愛犬が外耳炎になった時にしてあげられること
●正しい耳掃除をマスターする
獣医師から
・愛犬の耳の状態に合ったイヤークリーナーの選び方
・耳道のどこまで洗浄液を入れる?
・マッサージの方法
・拭き取り方
などを指導してもらいましょう。
綿棒は
・耳垢を奥に押し込んでしまう
・耳道を傷つける
などの可能性があるため非推奨。
・ガーゼ
・コットン
を指に巻き付けて
耳道の入り口付近を優しく拭き取る程度
にしましょう。
●毎日の耳のチェックを習慣に
・耳のニオイ
・耳垢の量
・耳の赤みなど
少しの変化に早く気づくことが
▶早期治療に繋がります。
愛犬がリラックスしている時に
▶耳をめくって優しくチェック。
●投薬は指示通りに
外用薬も内服薬も
獣医師から指示された
・量
・回数
・期間
をしっかりと守って投与してください。
「症状が良くなった!」
からといって自己判断で中止すると
・再発したり
・薬剤耐性菌が発生したり
する原因となります。
●痒がらせない工夫
痒みは犬にとって大きなストレス。
掻き壊しによる悪化を防ぐために
・エリザベスカラー
・保護服
を着用させることも検討しましょう。
●ストレスを軽減する
耳の
・痛み
・不快感
は犬にとってストレスです。
治療期間中は
▶いつも以上に優しく接し
▶安心させてあげましょう。
●再発予防を意識する
治療によって症状が改善しても
・原因が完全に除去できない
・体質的に外耳炎になりやすい犬種
の場合は
再発予防のためのケア
・定期的な耳掃除
・洗浄
・外用薬使用など
を継続することが非常に重要です。
獣医師と相談し、愛犬に合った再発予防プランを立てましょう。
犬の外耳炎:まとめ
犬の外耳炎は
・痒み
・痛み
を伴い
再発しやすい厄介な病気です。
しかし
・原因をしっかりと特定
・獣医師の指導のもと適切な治療
・洗浄
・薬物療法
を行い、そして
・日々の丁寧な耳のケア
・観察
を続けることで、多くの場合は
▶症状をコントロールし
▶愛犬が快適に過ごせるように
サポートすることができます。
・根気強い取り組み
・かかりつけの獣医師との密な連携
が愛犬を
・外耳炎の辛さから解放
・再発を防ぐための鍵
となります。
耳のトラブルに気づいたら、早めに動物病院を受診しましょう。
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